この職業はAI時代に大丈夫?(1) 弁護士
[chat face=”frogface.jpg” name=”カワダさん” align=”left” border=”blue” bg=”green” style=”maru”]それでは、個別に職業をとりあげて、AIとのせめぎ合いを明らかにしていこう。まずは法曹の花形、高収入の代表格でもある弁護士だ[/chat]
[chat face=”azatooth.jpg” name=”アザト君” align=”right” border=”gray” bg=”none” style=”maru”]頭の良い人がなる職業の代表だし、ここが危ないと、他はもうどうしようもない感じがする[/chat]
[chat face=”frogface.jpg” name=”カワダさん” align=”left” border=”blue” bg=”green” style=”maru”]高度な知識、判断が求められることは間違いない。そして、大量の判例から、必要なケースを引っ張りだして、関連する書類等の形にしていくということで、実はAIが力を発揮しやすいタスクが存在する。ただし、人間の能力でないと対応できない部分も多い。米国の例では、離婚や相続はAIに向いている、また、地方の下級審での定型的な訴訟においては、すでにAIが判決文等の下書きをしている。
もちろん、最終的には人間が判断して、その責任下で採用され手要るので、職業を奪うというのは少し違う。ただ、見方を変えれば、若手弁護士やパラリーガルが時間をかけていたタスクをAIがおきかえつつあるのは確かだ。結論から言うと、若手弁護士やパラリーガルにとっては脅威で、ベテランやスター弁護士、大規模訴訟の主任弁護士からすると、こんなに生産性を高めてくれるツール、パートナーは存在しないと言って良い。既に業界では必須の存在だ。
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[box04 title=”弁護士業界におけるAIの位置づけ”]
意外に知られていないが、AIの高度なホワイトカラー職への導入において、弁護士は先頭を走っている。すでに、10年近く昔から取り組まれており、判例検索や証拠・申立関連の書類作成など、主に若手弁護士やパラリーガルが行っている業務の大幅な効率化において成果があげられている。その意味で、弁護士は「AIが職を奪う?」という事例における先進的な注目分野の一つと言える。
まず、先行したのが、判例検索分野への導入である。この分野は特許検索や学術論文とならんで商業目的でデータベース化が進んだ分野であり、30年超の歴史と豊富なデータ(判例)の蓄積がある。裁判は、多くの場合、自分の側に有利な判例をもとに、証拠、申立を進めるものであり、判例の検索は訴訟業務における生産性を大きく向上させる。30年以上前は、膨大な紙の判例集に対して、目的の判例が多分、あったはずだというのを経験、記憶していることが求められたが、コンピュータ化によって、タグ付けされたキーワード検索となった。これにGoogle検索で見るような全文読み込みからの自動タグ付けがなされたことで、判例検索は劇的な効率化をなしとげた。
現在はAIを活用することで、目的にそった検索の効率化、絞り込みが短時間で出来るようになったが、それでも類似の判例そのものの数は依然として膨大であり、結局、アシスタント弁護士が読み込むことは、現在も行われている。
次に導入されたのが、欧米における経済犯罪分野、代表的なものとして汚職、独禁法違反における証拠探索、各種申し立て文書の作成支援である。
かつては、よく報道で見かけられた文書のつまった段ボール箱を、たくさんの人間が押収し、それらを若手担当者が読み込んで、証拠などの特定を行った上で、膨大な文書に対して目次、インデックスを付与して、証拠書類として提出する業務である。ただし、現在では応酬されるは紙の文書ではなく、電子のデータであり、押収先のパソコンからハードディスクを取り外して、それを解析することで必要なデータを収集する。
AIは、それらのメール履歴、保存文書を読みこんで関係者のやりとりと関連文書を解析する。たとえば、隠語(取引の実施や場所をゴルフ、テニス、スポーツクラブなどに言い換える)を明らかにし、メールのやりとりを人のネットワークとして構成し、時間、頻度と不正行為をつきあわせ、通常、ありえない連絡のやりとり等を浮き彫りにしていく。
従来は、指揮をとるベテラン弁護士と、読み込み担当の若手弁護士やパラリーガルが10人以上で2週間近くを要していたものを、最短で30分から2時間程度で処理できる。厳密には検証や初期解析データセット(全体ではなく一部を先行して処理して、対象となる関係者等の解析フレームを定める)の見直しなど、コツのわかった人を配置する必要があるが、若手弁護士の業務負荷を劇的に削減する効果をあげている。[/box04]
[box04 title=”どこまでAIで出来るか?”]
これまでの法曹分野におけるAI活用は、判例、証拠等の探索・解析から、申立・判決等の文書作成など、アシスタント等の下部構造を効率化する方向で進んできている。
現在のベンチャー企業等の取り組みも、ビジネスとしての規模の経済性を活かすことが一貫しており、複雑で高度な犯罪対応など、例外処理の固まりのような重要案件関連の処理能力を高めるというよりは、高い生産性を多くの人員(若手弁護士、アシスタント、パラリーガル)が働く業務領域で活用することを目指している。その方が商売として効率的だからである。
ただ、注目すべき動きとしては、法曹事務所ではなく、クライアント側に、これらのサービスを直接提供する動きが出つつあり、若手弁護士やパラリーガルだけでなく、小規模事務所が提供する比較的、難度の低いサービス(非法曹職である顧客にとっては十分、難度が高い)を、ネットワーク経由のAIサービスとして提供する動きも始まっている。
具体的には、契約書作成、評価、変更のアドバイザリーサービス、定型的な案件としての離婚訴訟支援サービス等である。この場合、顧客は人の弁護士とは最終段階、もしくは追加料金を支払わないとコンタクトできず、いわば弁護士サービスのネット版となり、弁護士業務の下部構造のAI化ではなく、弁護士市場の下部構造をAIが浸食することになり、その影響は大きいと予想される。
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[box04 title=”人間に残されたタスク、業務は大丈夫か?”]
高度な専門サービスの代表例である法曹サービスは、顧客の視点からは、おしなべて難しいと見えても、実態としては典型的、類似事例を参考とできる案件が多数存在しており、それらは大手事務所がシステマティックな業務処理と、街の個人や小規模事務所が個別に対応して処理してきた。これらの案件は、生産性の向上が利益に直結するAI化の重点ターゲットである。まずは事務所内での効率化、次に顧客への直接的なAIサービス提供が発展していく。
一方、大規模な訴訟、知財やM&A等の案件は、ツールとしてのAI活用は必須であるものの、AIで処理できない部分も多く、人間が中心となった体制でないと十分な品質、コストが保証されない。例外的なデータの収集や関連・手続き業務の煩雑さ、国内と海外にまたがった評価・判断、状況に応じた弁護方針の変更等は、AIによるサポートが有効であっても、AIに任せて人間が関与しないという状態には、達しにくい。
【弁護士、法曹関係者はAIと、どう向き合っていくのか?】
法曹分野は、膨大な過去からの判例にもとづきつつも、時代の移り変わりの節目においては、過去の判例が見直され、新たな判例が新たな基準と位置づけられていく。AIは、これまでの判例から、必要なデータ、手続き、比較等を行うという点で必須のツールであり、今後、ますます、その位置づけを増していく。
AIの進展によって、基準となる判例の見直しのような「潮目の変化」を抽出することも、長期的には可能性がない訳ではないが、その際も、人間の関与、意志決定等を含まない形で実現されることは想定しにくい。
弁護士に代表される法曹関係者は、AIをツールとして、より活用することで、日常の定型業務を高度に自動化しつつ、社会の変化にともなう、これまで判例の見られない案件への対応時間を増やすことになる。
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